半農半菓
時間どろぼう(4)  〜都市とスラム〜
2009年1月4日
ナイロビ中心部
ナイロビ中心部
とりかこむスラム
とりかこむスラム
銃を持つ守衛
銃を持つ守衛
ケニアの玄関、ナイロビ。
高層ビルが立ち並ぶ大都市だ。
ここらでいうなら、広島くらいの規模はあるだろうか。
人口は200万人といわれているが、300万人という報告もあって、ほんとうのところはよくわからない。
そして都市を取り囲むように、はるかかなたまで続くトタン屋根。
スラム街。
ナイロビの人口の半分以上100万人以上が、スラムに住んでいるといわれている。

ケニアの中でこの街ほど、持つものと持たざるものの格差が目に見えて顕著な街も珍しい。
一戸建ての家に住み、車に乗り、ビジネススーツで街を闊歩する人びとはおそらく数%にも満たないだろう。
40%の人たちは、仕事はあるけど、家賃と物価でぎりぎりの生活を強いられて、朝から晩まで働きどおし、都市の底辺を支える人たち。
そして実に60%もの人びとが、仕事もない、その日の食べ物にも事欠くスラム暮らしを強いられている。

喩えていえば、
1人の金持ちのレストランの経営者と、
そこで安月給で働く従業員39人と、
そういう仕事にもありつけず、残飯をあさり食いつなぐ人びと60人と。

ちょっと大雑把だけど、それほど、この街の経済格差はひどい。

でも、成功を夢見て、
仕事を求めて、
今もナイロビの人口は増えつづける。
そしてスラムの規模も。

ナイロビはまた、犯罪の巣窟でもある。
盗難、恐喝、詐欺、・・・。
僕も含めて、僕の知っているナイロビ滞在の日本人の9割以上が、なんらかの被害にあっている。
金持ちたちは、豪邸の周りを高い塀と鉄条網とで取り囲み、
銃をもった守衛を常に立たせている。
日本では想像できない光景だった。

でもナイロビの人たちも、スラムに住んでいる人たちも、ほとんどの人たちは善良な人たちだと思う。
今回みたいな切り口でナイロビを表現すると、
かなり悪い印象になってしまうけど、
日本の僕らからすれば、絶望的な生活環境の中で、
笑顔と陽気さを忘れず、力強く生きる人たちの姿がそこかしこに見られる事だけは言っておきたい。
ただ、あまりにもすさまじい貧富の格差が生み出す
絶望と羨望と、死への恐怖が、
一部の人たちをそういう道へ走らせるのかもしれない。

そしてナイロビだけかと思ったら、NGOの活動場所、ガリッサといういなか街でも治安がいいとはいえなかった。
市場に行くと出会うスリ、万引き。
正直、僕がケニアに滞在し始めて最初のケニアの印象は、
最悪だった。
街を歩く時、つねに気を張り、カギをかけ、荷物を見張っておかなければ、
絶好のカモちゃんなのだ。

一ヶ月くらいして、街を離れてちょっと田舎の方に仕事でおもむいたとき、はじめてほっとした。鉄条網もカギもない。
日本の田舎を旅した時とおんなじ空気。

そして、このブログやエッセイを読んでくれてる人なら知っているあの自給自足の村での生活をとおして、そんな平和な社会こそ、アフリカ本来の姿だったんだと確信した。

ケニア滞在の一年間をとおして、はっきりと感じたのは、
経済発展した街ほど、治安が悪く、犯罪が多いってこと。
経済システムが入ってないところほど、なぜか、平和で安全なこと!
市場経済が早くから入り都市化していったところほど、
格差が広がり、スラムが出来、
不安定な空気をかもし出す。

経済と人びとの幸せ度と、
そこになんらかの関係性があるのは、明らかだった。
でも、なんでだろうって思ってた。

かつては経済が成長すれば、誰もが豊かになれるとされていた。
だけど、実際には、世界の経済格差は広がる一方だ。
世界は一部の富者と大多数の貧者に分かれつつある。

大多数の貧困層によって成り立つ一握りのナイロビの富裕層。
大多数の途上国によって成り立つ先進国。
構図はそっくりだ。


国連の調査では
o 世界の5分の1の最も豊かな人々があらゆる財とサービスの86%を消費している。世界の5分の1の最も貧しい人々はその1.3%を消費している。
o この最も豊かな5分の1の人々は、あらゆる肉と魚の45%、全エネルギーの58%、紙の84%、 電話回線の74%、車の87%を消費している。
o 世界で最も豊かな3か国で、最貧の途上国48か国の国内総生産の合計額を超える資産を保有している。
o 世界の225人の富裕な人間たちが世界の総人口に占める最貧の47%の人たちの年間所得に等しい1兆ドルを超える富を持っている。
彼らの富の4%で、誰もが基礎的な教育を受けられる費用や、また女性の子を産み育てるコスト、適切な食料やきれいな上水道、安全な下水道に使われれるコストに相当する。

なんだって。

「金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った」の著者、安部芳裕氏によれば、
「1982年にドイツでおこなわれた研究では、利子が大多数の人たちからある少数の人たちに経済的な富を絶えず移動していることを証明しています。
この研究では、ドイツの全国民を収入レベルに応じて、それぞれ250万世帯ずつ10グループに分け、それから1年後、平均利子率5.5%であった1年間に延べ2700億マルクが利子の支払いや受け取りとして10グループの間を移動していることが計測されました。
その結果、富裕なトップ10%の世帯は、他の90%の世帯から342億マルクもの金額を受け取っています。」
ということで、利子が格差を助長しているという報告もある。

貿易ゲームというゲーム、知ってるだろうか。
開発教育のワークショップでよく使われるゲームで、
紙(資源)や道具(技術)を不平等に与えられた複数のグループ(国家)の間で、できるだけ多くの富を築くことを競う、貿易のシュミレーション・ゲーム。
このゲームに参加してみると、豊かなグループはより豊かに、貧しいグループはより貧しくなるというように、経済格差が半自動的に拡大していく仕組みを、誰もが体験することになる。

格差が拡がっていく背景には、
為替の格差や、初期条件の不平等など、いろいろな要素が原因にあるだろうが、
利子のシステムが一役買っていることに、たぶん間違いはないだろう。

あの自給自足の村を旅立つ最後の日、
長老のおばあちゃんが僕にしがみつくように、訴えるようなまなざしでこう言った。
「誰がお金を持ってきたんだ。
お金が来るまでは、この村はすべてが平和だったのに、
お金がきてから、何かが狂ってきた。
なぜ?」

あの言葉が、帰国してからもずっと、頭の片隅から離れない。

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