半農半菓
一反百姓
2004年7月24日
ピーヒョロロー。
頭の上をトンビが舞う。
今年もこの季節がやってきた。
田植え、真っ只中である。
毎年この時期は、カッパを着ながらの作業なんだが、今年の梅雨はいいのか悪いのか、快晴である。日差しは強い割りに風は涼しく、心地いい。

うちはお米はもみのまま、貯蔵しておいて、食べるたびにもみすりしている。
そのほうが、虫がつかないし、うまいからだ。
先日、「今日たく米がない!!」と妻が言ってきたが、ちょうどもみすりしてる時間がなかったので、とりあえずの米をスーパーで買ってきてもらった。
久しぶりに米を買って、驚いた。
2キロ、1300円もしたのだ。
うちは大人5人と子どもが2人。
2キロなんて数日でなくなる。

一本、一本、苗を植えながら、計算してみた。
(ちょっと数字が多くなるけど、がまんしてね。)
一本の苗が秋には、平均20本に分けつし、それぞれ100~150粒の穂をつける。
うちでは、一日ひとり2合弱の米を食べている。
2合の米粒を数えてみると、一万粒くらいあった。
一粒の米が、少なめに見積もっても、うちの場合、2000粒の実をつける。
ということは、5本植えれば、一人一日分の米ができるのだ。
5×365=1825本で、一年分。
それだけ植えるのにどれだけ時間がかかるのか計ってみた。
1825本植えるのに、だいたい6時間かかった。
なんと一人が一日田植えをすれば、365日安心して食べる米ができるのだ。
家族の分を一人でやったって、5日で終わる。
田植えが無事終われば、お米は半分できたも同然だ。
今年も一年、生きていけるという安心感に包まれる。

さて、野菜はプランターや家庭菜園でつくってらっしゃる方はけっこう多い。
が、お米は、けっこうハードルが高いようだ。
なんとなくイメージ的に「大変そう」「機械がいる」「むずかしそう」なんだろうか。
さて実際はどうなんだろう。
かくいう僕も6年前まで田んぼに近づいたことさえない男だった。
知り合いの農家のいわゆるJA推奨の米作りを一年とおして手伝ってみた。
多くの人がイメージしている米作り、このJA推奨の米作りにしか出会っていなかったら、僕は米作りはしなかったと思う。
作業はややこしいし、機械は高いから自分には買えないし、なかったら大変だし、農薬を扱うのは好きじゃない。、
なによりあのドロドロの田んぼの中にひざまで入るのが、好きじゃない。
「ヒル」さえいなけりゃ、はだしの泥遊び感覚で気持ちいいんだが、奴は食いついたら、なかなか離れない。
ひざまである田植え用長ぐつもあるが、あれは足がくさくなる。
とまあ、こんな男である。が、こんな男でも米はできるのである。

百姓から始めようと日本に帰って、福岡正信、川口由一、・・・・、自然農法といわれる類のいろんな人の本を読んだ。
それを実践している人の、いろんな田んぼを見学に行ってみた。
そしたら、あるじゃないですか、僕みたいな素人でもやれそうなやり方が。
耕さない。
自然にまかせる。
たったそれだけの発想で、こうも作業が簡単になるなんて。
(何より耕さないから、足が埋まらない=ヒルにかまれない、というのがいい。)

僕らには思い込んでしまっていることって、案外多い。
米作りが難しいというのも、そうだが。
耕さなかったら、土が固くなるというのも、そうだ。
たしかに前の年まで耕していた田んぼはガチガチだ。
でも耕さないでおくと、草の根の亡骸、それを住処にする微生物、それを食べる虫、もぐら、・・・、年を重ねるごとに、土はふわふわになっていくのだ。

話がそれたが、米つくりは簡単か、だったっけ?
結論からいおう。
家族の分をつくる程度だったら、米つくりは簡単だし、楽にできるのだ。
僕に言わせりゃ、野菜つくりのほうが、よっぽど難しい。
僕のやり方で、家族5人分を一人でやった場合、
4月半ば、苗床をつくり、お米の種を降ろす。2日の作業。
6月、畦塗り2日、田植えに5日。
7月、必要に応じて、つまり草に稲が負けそうなところは草を刈る。
10月、稲刈りに数日。
11月、脱穀1日。
主な作業といえば、これだけである。
田植えと稲刈りは、家族でやれば、1〜2日で終わる。
あとは、畦の草刈と、水が抜けてないかのチェック。
僕は草刈機も使うけど、鎌とクワがあれば、十分だ。
かかるお金は、草刈機の油代ともみすり代くらいだ。
わらや糠など、田んぼから出たものを田んぼにもどしてやってさえいれば、肥料をやらなくても毎年5俵(300キロ)はできる。
もちろん完全無農薬。(^^)

米だって、家庭菜園感覚でいいんじゃないだろうか。
とれたらとれただけが、もうけもん。できたぶんだけが喜び。
世話する楽しみ。収穫の喜び。食べるときの感動。
今年のトマトは単位面積あたり何キロで・・・なんて、収量なんて気にしないでしょ?
とれたらとれただけ、これだけとれたって感じで、うれしいもんです。
それが、出荷したり、お金換算になると、とたんにできた分だけで喜べなくなるから不思議。
8俵とか10俵とろうと思うから、難しくなるのだ。
肥料を買ったりつくったり、農薬を買ったり。
どのタイミングでやるか、どれだけやるか、どんな割合で、・・・。
僕にはちんぷんかんぷんだ。
毎年気候も土の状態も違うから、間違えのない答えがないのだ。
でも自然にまかせておけば、間違えがない。
寒けりゃ寒いように育つ。暑けりゃ暑いように育つ。
バランスをとるような草が生えてきて、バランスをとるような虫が出てくる。
バランスをくずさないだけ実がなる。
また、面積が広くなれば、機械なしでは大変だ。
機械を使うためには、すべて均一を要求される。
苗の高さがそろうように、密度が均一になるように、草がまったく生えないように、・・・。
広い面積、量の多いものを均一にするためには、技術と知識が不可欠だ。
そして均一にするための余分な作業が、山ほど出てくる。
そして機械代の元をとるためには、もっと、もっと・・・という悪循環におちいる。

しかし一反なら、素人感覚でできる。
機械なしでできる。
耕さなかったら、ハードな作業がない。
(ま、畦塗りくらいかな、体力がいるのは。)
家族分くらいの米は、楽にできる。
金もほとんどかからない。
そしてこの収穫の喜びを味わったら、もうやめられない。
もう楽しくてうれしくて、しょうがないのだ。
みんな一反百姓になればいい。
エネルギー問題も、食料問題も、健康も、ふところも、地球から個人まで、いろんな現代病が治っていくだろう。
来るべき時代は、そんな時代かもしれない・・・
と思うのは、僕だけ?

足元に群がる無数のクモ。
それを食べるカエル。
見ると、カエルをくわえたヘビが、畦から畦へジャンプした。
それを上から、ピーヒョロローが狙っている。
今日も、わが楽園は、豊かである。

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