半農半菓
家づくりのここまで(1)
2003年11月18日
さて、今日、畳が入った。
去年、うちの田んぼでできたワラでつくってもらった世界に一つしかない畳。
これで、一応家らしくなった。
ここまでを振り返ってみたい。

ひょんなことからこの古い家と土地1500坪を150万円で買うことになったのは、2年前、平成13年春のことだ。
きれいな水の山の上の田んぼを探していたときのこと。
かやぶきの家1軒と長屋2軒は附録だった。

当初、農作業の休憩にそのままでも使えるくらいにしか思っていなかったのだが、木々や花のにおい、水のせせらぎ、虫や鳥の声、ほほをなぜる風の心地よさ・・・・・・、五感に入ってくるすべてがあまりにも気持ちよくて、子供の小さい今こそこんな場所で過ごさせてやりたいという思いが日に日に強くなった。
どうせなら、小ぎれいにしたいと思ったが、何せ先立つものはない。
金は手元にはないけど、世間には山ほどある。
必要な金額は必ずそろうさと気楽に構えながら、とりあえず、廃材とか利用しながら工夫してと思っていると、出資者が現れた。

昨夏、解体に取り掛かった。
ぶよぶよに腐りかけた畳をはぎ、破れまくった建具をはずす。
暗い青色のじゅらく壁を削ぎ落とす。
ビニールクロスを張った床、壁紙を張った壁、低い天井、・・・。
100年の間に改装された部分は、すべて取り去った。

縄文式住居のような屋根裏からは一輪車2杯分のすすが出てきた。
この間ずっと防塵マスク着用の作業。
そうして出てきたのは、立派な梁、柱、土の壁・・・・。
なぜこんな表情のあるものを覆い隠してきたんだろうと不思議に思う。
すべてを剥いでみると、柱も傷んでなく、雨漏りさえ気をつければ、あと100年でももつことがわかった。

それなら構造体の部分はしっかりつくろうと大工さんに頼むことに。
横目で大工さんの仕事の仕方を盗めるし、一石二鳥だ。
床下の根太は、じいちゃんが何十年か前に植えていた杉を切って使った。
コンクリートはなるべく使いたくなかったので、土台になる基礎の石はすべて山に拾いにいった。
アフリカに行く金をつくるために、半年間造園屋さんに勤めていたとき、よく石垣つくりをしたのが、役に立った。

改装にあたって、どうしてもこだわりたかった点が、炭埋(たんまい)だ。
これは昔の日本というより、古代の日本の知恵で、炭を地中に埋めると、そこから一定範囲の磁場が変わるというもの。
何しろ当初、暗いじめっとした陰気な空間だったので。
ちょうど隣のおじいさんが、竹炭を焼いていたので、これを使うことにした。
ケーキ屋の改装のときにもこの技を使った。
僕はあんまり“気”がどうのこうのと分かる方ではないが、わかる人には分かるらしい。
この家の場合も、効果がどうだったか数値には表せないが、二十年来の万年肩こりの妻が、この家に泊まった数週間は、初めて肩こりのない日々を送ったことだけはたしか。

床には厚さ1寸の無垢の杉板を使った。
この間、大工さんの技をたっぷり盗む。
もちろん、見たから出来るというわけでもないが、後は経験だ。
無垢の杉は素足に心地いい。
一歩歩くたびに、気持ちいいと感じれるこの板の上に住んだら、いったい体は何回気持ちいいとつぶやくのだろう。
床にはワックスは塗らず、エゴマの油を塗りこんだ。

台所は土間にした。
不登校の子ども達と一緒に、左官屋さんに習いながら、石灰と赤土をまぜて、ひたすら叩きしめた。
水がこぼれようが、料理がこぼれようが、土がこぼれようが、まったく気にしなくてすむ。
床を掃いた埃は、土間に掃き出しとけばいい。
薪ストーブの火が飛び散っても、気にならない。
外仕事の合間に戻っても、クツを脱がずに一服できる。
面倒くさがり屋の僕には、この上ない。
こんな便利な空間を、いつのまに我々の国は忘れてしまったんだろう。
生活のスタイルが土から離れていくとともに、忘れられていった空間。

雨漏りがしていたところがいくつかある。
出資者を得て強気になった僕は、一部の屋根を張り替えることにした。
不登校の子ども達が手伝ってくれた。
石垣の上に聳え立つこの家は、屋根に立つと、3階建て以上の高さがある。
昔の瓦は重い。
手で持って運んでいたら、気の遠くなる作業だ。
幸い下が田んぼだったので、子ども達と一緒に、ひたすら投げた。
数十メートルの高さから投げられた瓦は弧を描いて田んぼに突き刺さる。
いかに下に散らばる瓦に当てずに、あいた地面に突き刺すか。
この瓦投げのゲームに、子供たちも僕もはまった。
おかげで、何百枚という瓦を降ろす作業があっという間に終わった。
大変だったのは、下で瓦を拾い集めるお母さん方だったことも、一応書いとこう。

かわらの下には土があり、その下には杉皮が、そして竹。
見事なまでに土に返るものばかりだった。
土は、田んぼの補修に。
杉皮は、風呂や車庫の外壁に。
竹は、薪ストーブの着火材代わりに。
それぞれ姿を変えた。
そして野地板を張り、あとは瓦をのせるだけで出来上がりというところで、12月になり、さすがに夕方さえも時間がとれなくなったので、あとは瓦屋さんに。

なにはともあれ、これで雨漏りの心配はたぶんない。
また100年、この家が住み継がれていく下地ができた。
続きはまた来月に。

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